「音楽」の教育力
「天高く馬肥ゆるの秋」と評されて来た秋のはじまりです。幼児期は春の彼岸を中心に身長が伸び、秋の彼岸を中心に体重が増える、といわれます。爽やかな風と短かくなりはじめる日足のやわらかさは夏の暑さと心地よく別れさせてくれます。四季の移り変りを手にとるように感じさせてくれるのも10月です。芸術の秋でもあります。
この季節になりますと、何故か幼い頃母が歌ってくれた子守唄や古い童謡の歌詞が思い出され、ふと口遊んでしまいます。そして幼い頃に遊んだ広場や学校や友だちの面影を思い出してしまいます。
こんな経験を繰り返しながら教育の世界に生きてきた私は、「音楽には人の心を永く捕えて離さない力がある」と、思うようになりました。
この「力」を幼児教育に活用したい、という思いで、48年前に32歳で幼稚園を開園した時から全部のクラスに音楽の源音楽器であるピアノを入れ、先生もピアノの得意な人材を採用して参りました。
「音楽」には人間の心や身体に働きかける不思議な力がある。この不思議な力を幼児教育に生かそう、と取り組みました。園の重点教育の柱の一つに音楽教育を据えているのは、私の強い思いからです。
幸い近年「音楽の脳科学的研究」がアメリカで飛躍的に進み、「音楽は、人間の脳を含めた身体全体で、ホルモンなどの科学物質の調整を行っていること」が明らかになりました。
音楽がつくり出す化学物質の中でも重要なのはテストステロンとエストロゲンです。
この二つの化学物質は、一般には男性ホルモンと女性ホルモンという名で知られ、男女ともこの二つのホルモンを持っています。
これらのホルモンは、人間の身体の中で、さまざまな働きをしますが、最も注目されているのは「脳」での働きです。最近の研究で、性ホルモンは、脳で新しい細胞(ニューロン)を作ったり、細胞同士の連結を強めたりすることが分ってきました。つまり、音楽がホルモンを通して、脳の中で新しい細胞を作り、傷ついた細胞を修復している可能性があるのです。
高齢化が進み、アルツハイマーなどの認知症に罹る人が増えている中、自分の子どもの顔すら分らなくなった人でも、昔子どもの頃に覚えた歌はすらすらと上手に唱えるという話をよく聞きます。
このようなことは、音楽が性ホルモンに働きかけて、脳を修復したのだろうと想像されます。
これからより一層の音楽の科学的研究が進むにつれ、学校教育の中に占める音楽の比重が増々大きくなることを楽しみにしているところです。季節の変わり目をご自愛切に!